商社として取り組んだ"製品開発"という挑戦
起動電力アシストシステム『VEAS』開発ストーリー
ホクショー株式会社様が開発した「起動電力アシストシステム『VEAS(ヴェアス)』」。この装置は、垂直往復タイプの搬送機(オートレーター)に組み込むことでカウンターウェイトの上昇運転時に蓄電デバイスから電力をアシストし、設備側電力のピークカットを行います。また下降運転時に発生した回生エネルギー(※1)を蓄電デバイスに取り込み、アシスト電力として再利用。これらの機能によってランニングコストを大幅に軽減する“経済性”と“省エネ性”を追求した製品です(※2)。物流システムの世界で初となるこの画期的な製品に、伊東商会は開発チームの一員として携わりました。
(※1)ある負荷によってモーターが回転させられることで、モーター自体が発電機となって発生するエネルギーのこと。
(※2)設備電源容量は最大40%、消費電力量は最大38%削減することが可能。
地道な営業活動が引き寄せた、思いがけないチャンス
共同開発のスタートは2007年。後にVEASの担当者となる伊東商会の上杉は、ホクショー様にコンバータの営業活動を行っていました。度重なる営業活動のなかで、上杉はある日、いつも製品性能をPRしている開発・設計部ではなく、調達部の方とお会いする機会に恵まれます。しかし、そこで調達部が興味を示したのは、主にご紹介していたインバータの製品性能ではなく、インバータの応用アプリケーションでした。VEAS設計のご担当者様は、当時を振り返って次のように語ります。
「すでに開発プロジェクトは社内でスタートしていたのですが、VEASには高性能なインバータが必要不可欠で、当時その選定に行き詰まっていました。そんなとき、伊東商会の提案を見た調達部から報告を受けたのです。一目で分かるその高い技術力に、この製品ならVEASともマッチングするだろうと直感し、話を聞いてみたいと思いました」(ホクショーご担当者様)
ようやく手に入れた大きなチャンスではありましたが、思わぬ方向からのお問い合わせに、上杉も驚きました。
「単純に“製品の良さ”だけをアピールするのではなく、『その製品を応用して何ができるのか?』『ホクショー様が本当に求めているものは何か?』という総合的な視点に立って製品の価値をお伝えするのが大切なのだと改めて認識しました。ホクショー様にインバータという製品の価値を再発見していただいたのだと思います」(上杉)
重要なのはお客様の目線に立ち、「この製品によってどんなソリューションや価値を提供できるのか?」を考えること。一人の営業マンとして、上杉は自分の役割を再確認しました。その後、調達部を介してVEASの設計ご担当者様との顔合わせが実現。VEAS共同開発という、新しいチャレンジが本格的に動き出します。
プロデュース役として、円滑なコミュニケーションに尽力
プロジェクトチームに集結した企業は総勢5社。インバータを開発する安川電機、充放電制御装置(DC/DCコンバータ)の技術開発を担うトライテック、蓄電デバイスの改良を担当するキャパシタメーカー、そしてホクショー様と伊東商会です。チーム内唯一の商社である伊東商会は、各メーカーの意見や進捗状況を調整・管理し、プロジェクト全体をまとめ上げるプロデュース役を務めることになります。
それぞれの分野で高度な技術力を有する各メーカーにとっても、VEASの開発は前例のないチャレンジ。ときには意見がぶつかることもありました。
「特に難しかったのが、VEASの核となるDCコンと電池部分の安全基準の設定。業界初の製品なので、加熱や過充電・過放電を防ぐためにどのような基準と仕組みを設ければいいのかも未知数でした。幾度も議論を重ねて試作を繰り返し、データを収集しながら、地道にイメージを形にしていきました」(ホクショーご担当者様)
各メーカーの拠点は金沢・福岡・東京とバラバラでしたが、上杉は電話・メールでのやりとりはもちろん、各工場にも頻繁に足を運び、コミュニケーションをとりながらスムーズなプロジェクト進行に尽力します。
「意見を取りまとめる上で、皆さんのやる気を損なうようなコミュニケーションだけは避けようと意識していました。例えば、何か問題が発生したときに、責任を一社に押しつけるようなことは絶対にしたくなかった。その上でクリアすべき課題は明確に伝え、各メーカーがベストパフォーマンスを発揮できる環境づくりを心がけました」(上杉)
“新しい価値をつくる”楽しさを心から味わえた
開発チームは、各メーカーがそれぞれの製品へのこだわりを持ちながらも、お互いの見地からオープンに意見を交わし合うことでプロジェクトを進めていきます。それは、一つのゴールを目指してメンバー全員が一致団結する“ものづくり”における理想的な関係でした。
そのような関係性を構築できた大きな要因は、「ピークカット機能によるコスト削減」と「回生エネルギーの再利用による省エネ化」という2つの製品ビジョンを、ホクショーご担当者様が当初から明確に打ち出していたことにあったと上杉は分析します。
「製品としてのゴールが明確だったので、課題を一つずつクリアすれば確実に完成に近づいていく。そんな実感がチーム内できちんと共有されていました。何よりもメンバー全員が“ものづくり”に携わる職人気質な人間なので、ハードルが高ければ高いほど、それを乗り越えるのに夢中になっていたようです。私自身も、今回のプロジェクトを通じて“ものづくり本来の楽しさ”を心の底から味わうことができました」(上杉)
そこにあったのは、「自分たちがこれから新しい価値を生み出していく」というつくり手としての意識の高さ。VEASの共同開発は、担当者の上杉にとっても、そして伊東商会にとっても“商社の枠組みを超えた活動”として価値ある経験となりました。
さまざまな試行錯誤を重ねた末に、VEASの初号機は2010年に完成。その後さらなる改良を繰り返し、現在の完成形へと辿り着いたのが2012年のことでした。
VEASの技術を、世界に誇れるものにしたい
VEASは毎年順調に受注実績を伸ばし、現在ではホクショー様の主力製品の一つとなっています。またその省エネ性能が認められ、平成24年度省エネ大賞も受賞。VEASの知名度を高める後押しになりました。今回のプロジェクトを振り返り、ホクショーご担当者様は次のように語ります。
「ある物流展にVEASを出展したとき、ライバルメーカーが口々に『ウチでも同じようなことを考えていたんだけど……』と言うんです。しかし、結局実現には至らなかった。VEASで用いられる技術は、専門性を持ったさまざまな企業の協力が必要不可欠で、チーム間の連携が難しいのだと思います。だからこそ各メーカーの間に立って“コミュニケーションの舵取り役”を果たしてくれた伊東商会の存在が、今回のプロジェクトでは欠かせないものでした」(ホクショーご担当者様)
2016年現在、ホクショー様の担当は若手の山田へとバトンタッチ。現在はVEAS設計ご担当者様と共に、災害時により特化した新型VEASのリリースに向けて動いています。上杉と山田、新旧2人の担当者はVEASのさらなる普及に向けて今後の意気込みを語りました。
「VEASに用いられる技術がさらに進化し、10年後には日本特有の技術として世界に誇れるものになって欲しいんです。そのために伊東商会は、今後もホクショー様の良きパートナーとして、VEAS の技術をさらに高めるためのお手伝いをさせていただきたいと思っています」(上杉)
「プレッシャーも大きいですが、上杉とホクショーのご担当者様が築いてきた信頼関係をさらに深めていけるよう力を尽くします。この画期的な製品に携われたことを誇りに思いながら、誠心誠意を込めてこれからのVEASを支えていきたいです」(山田)